※お堰カレッジは「身の回りの川のことや社会問題について、市民が学ぶ場をつくろう」と有志によって結成された勉強会です。「川、第十堰、住民投票、環境教育」などを中心に、それぞれが気になるテーマを設定し(こじつけOK)、学んでいきます。
「ダムだけじゃない、流域治水への転換」
今夏、国の治水の方針が大転換されました。
国の方針がダムや堤防のハードから「流域治水」へ。
詳しくは朝日新聞の記事(リンク)などをご参照のこと。
https://www.asahi.com/articles/ASN6Z524NN6YULBJ01P.html
近日、流域治水への方向転換を後押ししたという元滋賀県知事で参議院議員の嘉田由紀子さんが吉野川に来られるということで、お堰カレッジの記念すべき第1回テーマは「流域治水」になりました。
プレゼンターは川塾代表のぺぺ。
国土交通省が出している資料を元に、その考え方と、吉野川の現状を学びます。
(国交省の提示している流域治水が、嘉田さんらが提唱するものとは乖離している部分があった、というのはまた次回のお話です。)
「これまでの治水って?」
そもそも、これまでの治水とはどのようなスタイルだったのでしょうか?
参加者にイメージを聞いてみました。
かなこ「ダムとかかな?ダムを作ったり、操作してたりとかかな?」
しまちゃん「川だけ(周辺の環境のことなどを含まない)、みたいな?」
くろおび「堤防をつくったりして、川の水は川の中に抑え込むっていう治水かな?」
概ね、そのとおりです。
これまでは、堤防内の川の中(河道)でどう洪水を海に流すかがこれまでがほとんど全てでした。
でも気候変動などの影響で、それだけでは抑えられなくなり、川の周辺の土地を含めた土地で防ごうアイデアです。
川の中から流域全体へ、ということですね。
もう一つは「主体」の違い。
国交省の流域治水を説明する資料では「河川・下水道管理者等による治水に加え、あらゆる関係者により流域全体で行う」とあります。
住民が含まれているのが大きな特徴です。
(ちなみに、河川管理者は、ざっくり言うと、一級河川は国、二級河川は県管理です。)
この2つが大きな転換点です。
ちなみにこのアイデアは「総合治水」と呼ばれるなど、名称は違うものの、昭和後期からあったのです。
さらにもっと遡れば、100年ほど前、現在の吉野川市の川の中州・善入寺島は、住民が移住して、洪水のときには浸水することを前提とする遊水地となるなど、「水害が起こる地域には住まない」という政策は、昔から行われてきたことなのです。
(近代になって河川の管理が国や地方自治体に移譲されてから、洪水対策がハードに偏ることになったというのは、また次回以降のお話)
「実際にはどのようなことが行われるの?」
さて、では実際に今回方針転換された「流域治水」の政策では、どのような対策がなされるのでしょうか?
国土交通省の説明によると、①氾濫をできるだけ防ぐ②被害を減少させる③被害の軽減・早期復旧・復興ーの3つに分けられます。
①氾濫をできるだけ防ぐ
従来からある、堤防から川の水があふれるなどの「氾濫」を防ぐ対策です。
水があふれるのをふせぐためには、川に入る水を減らしたり、堤防を強化するなどの対策が考えられます。
ですが、今回新しく入った方針もあります。
例えば、ダムの洪水調節機能を強化する(操作の方針を変えることで可能になるのですがそれはまた別の話)、使ってない農地などを遊水地にするーなどです。
また洪水時に水を貯める「遊水地」の活用もあります。
2019年の台風19号では、利根川の渡良瀬遊水地が「約1億6千万トンの水をため、下流の東京方面に流れ出る水量を抑えて被害を防いだ」(朝日新聞)など、大きな役割を果たしました。
環境省は「遊水地の潜在性の全国マップをつくることをめざす」(同)としています。
②被害を減少させる
洪水と水害の違いは別のものです。そのことは、吉野川にゆかりの深い河川工学者の大熊孝先生の本によく出てくきます。
水害は人の生活に被害がおこること、水があふれる洪水でも、人に被害が出る「水害」でなければ、問題ありませんよね。
ですので、水害が起こりそうなエリアでは、移住の促進や土地の利用規制などで、溢れても「害」が起こらないようにしようとするものです。
③被害の軽減・早期復旧・復興
これについては今回は割愛します。
「吉野川の現状は?」
流域治水への方向転換は、全国の一級河川で始まっています。
徳島の一級河川は、吉野川と那賀川です。
ですから、吉野川は含まれますが、鮎喰川は含まれません。
吉野川の現状の流域治水の進め方はどうなっているのでしょうか?
国交省のホームページでは「吉野川水系流域治水プロジェクト」というページがあります。
今までに2回会議が行われました。
参加者は各自治体の長、国土交通省だけど、実際にでているのは担当部局の部長クラスが多かったようです。
第1回は6月、第2回は一昨日ありました。
中間案はホームページに出ています。
吉野川は吉野川本体と旧吉野川、今切川が対象となっています。
案がでているのが
・ポンプ場の整備、下水路を整備
・道の駅板野が建設中らしく、そこの地下に雨水調整池を設置する。
・半田、輪中堤で区域内の建設物を制限する
・ダムの事前放流について、利水容量を減らして容量を増やす。
という内容です。
この計画は次回の会議(3月)で決定してしまい、来年から実施に移るそうです。
「疑問質問感想」
・土地利用が大きなトピックスになるのではと思っている。淀川は天井川の地域があり、水害が起こると数十万人が水害に見舞われる。だけれど、普通に暮らしてたら、そんなことに全く気づかないだろう。水があふれることを前提とした治水となった場合、(お堰のある)佐野塚の地下は下がるだろうし、不満もでるだろう。(ぺぺ)
・流域治水の会議のメンバー、行政の人ばっかり。住民が参加していないのが気になる。結構トップダウン的だなと感じた。(たくや、かなこ、とよこ)
・流域で本当に危ない場所を示すのか示さないのか(山下さん)
・土地規制は誰が設定するのか、またそれをどこまで信じていいのか(かなこ)
・そもそも川との関わり方が変わらないと、変わらない部分も多いのではないか(しまちゃん)
・災害が少ない場所に住むだけでも大きな効果あると思う。その呼びかけをしっかりしてほしい(みお)
・住民が主体者になることの意味は住民参加である、そのプロセスははとても大切。だけど、洪水があった時に、責任は管理者にあるのかということで、裁判が沢山ある。その主体が住民にもならないかなっていうことはすごく不安がある。(ぺぺ)
・対策を国がやりますよ、ってなったのがこれまでの経緯。それからの大きな変換。(山下さん)
では、住民はどういう風に参加できるのでしょうか?
・意見を聞く場があれば参加して発言したい(山下さん)
・誰が「流域住民の代表」なのか。どう選定することができるのか(かなこ)
・国会のように議事をオンライン配信したら、関心が高まって盛り上がると思う。
・市民参加のプロセスを取り入れてほしいということを国交省に要望してみてはいかがでしょうか(たくや)
今回出た疑問を嘉田さんにぶつけてみよう、ということで第1回目は終わりました。
次回は、「嘉田さんに話を聞いてみた」編です。お楽しみに。